青い薔薇の花言葉は「奇跡」。偉大なる自然すらもその色に染めること叶わぬがゆえ、その言葉はひときわの輝きを放つ。かつては、白い薔薇に青を染めることでその象徴をなそうとした時代もあったが、グロリアス王家は幾歳月にわたる試行の末、ついに真なる青い薔薇をこの世に咲かせることに成功した。

この栄光が、永く続いていればよかったものを。王家の威光は急激に陰り、象徴たる青い薔薇の奇跡の言葉さえ、色褪せていった。それは、戦乱の暗雲が空を覆い尽くした時代。狼のごとき貴族たちが次々と反旗を翻し、混迷の中、最後まで王家に忠誠を誓い続けたのは、ただ一つ、レディオス家のみであった。

やがて先王が暗殺され、政は混乱の極みに達した。そしてレディオス一族もまた、滅びの運命から逃れることは叶わなかった。ただ一人、幼き王子の古き友、クロム・レディオスを除いては。だが、時は再び王家に味方した。貴族たちの間に分裂が生じ、一部の勢力は王家への忠誠を取り戻す。

クロムを中心とした親王派貴族の助力により、若き王子カール3世はついに王位へと就いた。即位の後、彼が最初に行ったこと、それは、レディオス家の復権のため、自らの権限の一部をクロムに譲ることだった。その瞬間、カール3世が傀儡の王となる運命を予見していたかは定かではない。だが、ただ一つ確かなことがある。それは、クロムが大将軍の座に就いたその日、誰よりも晴れやかな笑みを浮かべていた、ということだ。

父を失い、王となった少年は心に誓った。民すべての父となり、生き残り、守り抜くと。幾度となく繰り広げられた権力闘争から、彼が得た教訓は、鋭き棘を振りかざすだけが力ではない、ということだった。ゆえにこそ、カール3世は自らの棘を静かに削いでいった。

ある者はそれを、「見かけ倒しの王の処世術」と揶揄する。だがそれだけではない。カール3世は知っている。油断した者が、どれほど容易く己の弱みを晒すかを。